「AI、うちも入れたほうがいいんでしょうか」と社内で話が出て、その日の夜に社長が費用を調べてみる。工程ごとの相場を並べた記事がいくつも出てきて、書いてある金額を上から順に足していくと、数百万円から数千万円になる。従業員が10人から50人の会社が、この額をいきなり決められるかというと、たぶん決められないと思います。

先に決めるのは金額ではなく、頼まない範囲のほうだと思っています。順番が逆になっているので、見積もりを見ても高いのか安いのか判断できません。工程ごとの費用の桁も、自分でやったほうが安くなる条件も、範囲が決まってはじめて意味を持つ数字です。

「AIで全部いけますよ」の「全部」が決まらないと、見積もりは取れない

会議で、社内の誰かが「あれ、AIで全部いけますよ」と言う。悪気はありませんし、たぶん半分くらいは本当のことです。ただ、その「あれ」と「全部」が具体的にどの作業を指しているのかは、その場では誰も特定していないことが多いように思います。

ここが決まらないまま支援会社に相談すると、相手は答えようがないので、いちばん大きい絵を描いて持ってきます。全社のデータを整理して、基盤を作って、そのうえでAIを載せる。金額は数百万円から。それは間違った提案というより、漠然とした質問に対する、正しい返事なのだと思います。

最初にやることは、AIについて勉強することでも、支援会社を何社か比べることでもなく、対象を1つの業務に切ることだと考えています。請求書の作成なのか、問い合わせへの返信なのか、議事録なのか。どれか1つに切ってから同じ質問をすると、返ってくる見積もりは桁が変わります。

工程別の費用の桁。30人の会社が最初に触るのはどこか

AI導入支援を売っている会社が公開している金額を見ていくと、工程はだいたい次のように分かれています。呼び方は会社ごとに違うのですが、中身はほぼ同じです。

  • 課題整理・方針づくり。何をAIにやらせるかを決める。数十万円から数百万円
  • お試し導入(PoCと呼ばれます)。小さく作って効果を見る。数十万円から数百万円
  • 開発・実装。自社専用の仕組みを作る。数百万円から数千万円
  • 運用・定着。入れたあとの伴走。月額で数万円から数十万円

この4つを全部買うと数百万円を超えます。ただ、10人から50人の会社が最初に触るのは、上の3つ目より手前だと思います。既にあるツールを1つ選んで、自社の業務に合わせて設定して、使う人に説明する。ここまでで足りてしまうことが、けっこうあります。

開発が要るのは、既製のツールでは業務が回らないと分かったあとです。順番が逆になると、まだ使ってもいないものに合わせて仕組みを作ることになってしまいます。

金額の桁を見ても自社がどこから始めるかが決まらない場合は、会社の課題診断(無料・登録不要・約3分)で当たりを付けられます。

自分でやったほうが安いのは、どういうときか

この計算は、支援を売っている会社の記事にはあまり出てきません。まじめに計算すると、外注が負ける場合が出てくるからだと思います。私たちも同じ商売をしている側ではあるのですが、次の3つに当てはまるなら、無理に頼まなくていいと考えています。

  • 既製のツールを1つ契約して、設定するだけで終わる。いまのAIツールは月に数千円で使えるものが多く、設定も管理画面から選んでいくだけで済みます
  • 社内に、新しい道具を触るのが苦にならない人が1人いる。ITに詳しい必要はなく、説明書を読んで自分で試せる人であれば足ります
  • 対象の業務が、月に数時間しかない。削れる時間より、決めごとにかかる時間のほうが長くなります

逆に、自分でやるほうが安いという計算が崩れるのは、社内から出せる時間を多めに見積もったときです。10人から50人の会社では、新しいことを任せられる人はすでに別の仕事で埋まっています。「月に10時間くらいなら出せる」と考えて始めて、実際に出せるのが月2時間だったとすると、単純に5倍の期間がかかり、その間ずっと業務は今のままになります。

判定に必要な材料は3つだけだと思います。その業務に月何時間かかっているか。社内から月何時間出せるか。その人が抜けたら誰が困るか。この3つが出ていれば、頼むか頼まないかは自社で決められます。3つ目の答えが「誰も引き継げない」なら、金額を比べるより先に、そこを外すほうが効くはずです。

なお、外に頼んだ場合に何が自社に残るのかは情シスアウトソーシングで外注できる範囲と残る2つに、人に頼む場合とツールで済ませる場合の線引きはAI顧問の選び方|人が来るのか、ツールが来るのかにまとめてあります。

30分・無料・オンライン

「どれから手をつけるか」を、30分で決める

困っていることは分かっているのに、順番が決まらない。その状態で見積もりを取ると、比べる基準がないまま金額だけが並びます。話を聞いて、先にやることと今期はやらないことを分けるところまでやります。

空いている日時を見る →

オンライン(Google Meet)。売り込みはしません。

最初の1つの選び方と、今は触らないもの

AI導入支援で扱う業務の3分類。①外に頼んでいい業務 ②自分でできる業務 ③今は触らない業務
③に入る業務は、AIに下書きをさせても最後に人が見て決める形を崩さない

対象を1つに切ると決めても、今度はどれを選ぶかで止まります。選ぶときに見ている基準は、次の4つです。

  1. 毎月必ず発生する。年に1回の業務は、次に来るころには決めたことを忘れています
  2. 手順が決まっている。やるたびに判断が変わる業務は、まだ早いかもしれません
  3. 間違えても取り返しがつく。社内で気づいて直せる範囲に収める
  4. 担当が1人。関係者が多いと、道具の前に調整が要ります

この4つに当てはまるのは、たとえば問い合わせへの返信の下書き、議事録の整理、社内向け文書のたたき台、決まった形式の入力作業あたりです。

逆に、今は触らないほうがいいものもあります。人事評価、取引先の与信判断、社外に出す文書の最終確認、法令が絡む処理。このあたりは、間違えたときに社内で気づけません。AIに下書きをさせること自体は問題ないと思いますが、最後に人が見て決める形を崩さないのが前提になります。

「全部やりましょう」と言われると、結局どれも始まらないまま終わります。1つ目が回り始めてから次へ移るほうが、遠回りに見えて速いはずです。どの業務が自社にとって重いのかが分からない場合は、業務の棚卸しのやり方|1人分・紙1枚で終わる手順に、1人分だけ書き出す手順をまとめてあります。

支援会社に払う費用が、補助金の対象になる条件

デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠の補助額の上限。業務プロセス1つ以上で150万円、4つ以上で450万円
補助率は1/2以内。数千万円の見積もりはこの枠を明らかに超えている

ここから先は、公的な資料に書いてあることをそのまま並べます。国の補助金に「デジタル化・AI導入補助金」があります。2026年(令和7年度補正予算事業)から、それまでの「IT導入補助金」を名称変更したものです。AI導入支援を紹介している記事の多くが、まだ旧名称のまま書いています。制度そのものの入口(今の公式サイト、締切の確認先、申請に必須な2つ)はIT導入補助金2026|デジタル化・AI導入補助金の申請先に分けてまとめました。ここで見るのは、支援会社に払う費用が補助の対象になるかどうかだけです。

通常枠の補助額と補助率は次のとおりです。

  • 業務プロセス1つ以上:5万円以上150万円未満
  • 業務プロセス4つ以上:150万円以上450万円以下
  • 補助率:1/2以内(一定の最低賃金の要件を満たした場合は2/3以内)

そして、補助の対象には「導入コンサルティング・活用コンサルティング」「導入設定・マニュアル設定・導入研修」「保守サポート」といった役務が含まれています。つまり、支援会社に払うコンサル費や研修費そのものが、対象になり得るということです。

ただし条件があり、ここを読み落とすと話が変わってきます。

  • ソフトウェアの導入が必須。役務はあくまでオプションの扱いで、コンサルだけ・研修だけを申請することはできません
  • 申請できるソフトウェアの条件がある。顧客対応・販売支援、会計・財務、総務・人事など、決められた業務プロセスを持つものであることが必要です。業種や業務を限定しない汎用のツールだけでは申請できません
  • 手続きは事務局に登録した事業者と一緒に進める仕組みになっています。どの支援会社への支払いでも対象になる、という制度ではありません

金額の上限が450万円という点も、そのまま読むと使えます。数千万円の見積もりは、この補助金の枠を明らかに超えています。それが悪いという話ではないのですが、10人から50人の会社が最初に判断する材料としては、天井が先に分かっているほうが話は早いと思います。

締切は年に複数回あり、日程は年度ごとに変わります。申請の手順や必要な準備は事務局のサイトで確認してください。私たちの側で「申請すれば通ります」と言えることは何もありません。

出典:デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました(中小企業庁)通常枠|デジタル化・AI導入補助金2026(事務局)

相談前に用意する3枚と、見積書で見る1点

支援会社に声をかける前に用意しておくと楽なのは、3枚の紙です。立派な資料である必要は、まったくありません。

  1. 対象にする業務の手順を書いた紙。箇条書きで、抜けがあってかまいません
  2. その業務に月何時間かかっているか。正確でなくていいので、担当者に聞いた数字を書く
  3. 誰が担当していて、その人が抜けたら誰が困るか。これが提案の前提を決めます

この3枚があると、相手は具体的な話しかできなくなります。無いまま会うと、一般論の説明だけで1回目が終わってしまいます。

返ってきた見積書で見るのは、内訳が分かれているかどうかの1点です。ソフトウェアの費用、設定の費用、研修の費用、月々の保守。この区分が書かれていない「一式」の見積もりは、どこを削れるかが読めません。減らす相談ができない見積もりは、増やす相談しかできない見積もりになってしまいます。

費用を聞いて「ご支援内容によって異なります」としか返ってこない場合は、こちらから範囲を切って聞き直してみてください。「この業務だけ、既製のツールで、3か月で」と条件を付ければ、桁は答えられるはずです。ここで答えられない相手とは、その先も金額の話ができないように思います。

契約したあとの話――月額に何時間ぶんが含まれるのか、管理者の権限をどこまで渡すのか、効かなかったときにどう辞めるのか――はIT顧問の選び方|契約前に決める3つと辞め方に整理しました。頼むと決めたあとは、そちらを見てください。

お金が消える失敗より、現場が冷める失敗のほうが長引く

失敗の話は、たいてい金額で語られます。ただ、10人から50人の会社で本当に痛いのは別のほうかもしれません。一度うまくいかないと、次に何かを提案したときに「またか」という空気になる。これは金額と違って、いつ戻るのかが分かりません。

冷めさせないためにできることは、3つあると思っています。

  • 対象を1業務に切る。効かなくても、被害がそこで止まります
  • いまの担当者の仕事を増やさない。負担を減らすために始めたのに、移行作業でその人の残業が増えるなら本末転倒です
  • やめる条件を、始める前に紙に書く。「3か月後に、この業務の時間が減っていなければ元に戻す」。これを先に決めておくと、途中でやめることが失敗ではなくなります

それと、これは断定して書きますが、人を減らす話ではありません。10人から50人の会社で起きているのは人が余っている状態ではなく、特定の1人に業務が寄っている状態です。減らすのは人ではなく、その人しか触れない仕事の数のほうです。

明日、担当者に言えること

ここまでの話を、5つにまとめます。

  • 最初に決めるのは金額ではなく、頼まない範囲
  • 10人から50人の会社が最初に触るのは、ツールの選定・設定・使い方の説明まで。開発はその先
  • 判定材料は3つ。月何時間かかっているか/社内から月何時間出せるか/抜けたら誰が困るか
  • 補助金の通常枠の上限は450万円。役務も対象になるが、ソフトウェアの導入が前提
  • 見積書で見るのは内訳が分かれているかの1点

この5つが手元にあれば、明日の朝、担当者に一言だけ言えます。「あの作業、来月までに答えを出す。それまで今のままでいい」。始める日を決めるより、いつまでに決めるかを決めるほうが先だと思います。

私たち合同会社デジタル屋さんは、この切り分けを会社の中に入って一緒にやる仕事をしています。「うちはどこから手を付けるべきか」を決めるところからで構いません。内容や規模によって進め方が変わるため、費用は要相談としています。まずはお問い合わせから状況をお知らせください。

お気軽にご相談ください

企画段階のご相談でもOKです。1〜2営業日以内にご返信します。

ご入力いただいた個人情報は、お問い合わせへの対応のためにのみ利用いたします。