法令対応

電子契約の印紙税が不要な理由⁠|課税される4つの場面

公開 更新 文:和泉 みなと

電子契約に収入印紙が要らないのは、印紙税がかかるのが「紙の文書」を作って相手に渡したときだけだからです。電子データは課税される文書に当たりません。ただし、電子で送ったあとに紙の正本を渡すと、その紙には印紙が要ります。

この記事では、紙の契約書に毎月収入印紙を貼っていて、電子契約に切り替えると本当に要らなくなるのかを確かめたい中小企業の経営者・経理担当の方に向けて、次の7つをお伝えします。

  • 電子契約に印紙税がかからない理由と、その根拠
  • 紙の正本を渡すと課税されるケース
  • 電子契約でも印紙が要る4つの場面
  • 紙と電子が混ざったときの扱い
  • 印紙代がいくら浮くかの計算方法
  • 注意点(電子データの保存、過去の印紙の還付、覚書)
  • この扱いが今後変わる可能性

電子契約に印紙税がかからない理由|課税されるのは「紙の文書」だけ

印紙税は、契約書や領収書などの文書を作ったときにかかる税金です。対象は、印紙税法の別表第一に並んだ20種類の文書に限られます。国税庁は課税文書の条件を3つ挙げていて、そのうちの1つが「当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること」です(国税庁 No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断)。ここでいう文書は紙のことなので、パソコンの中にあるデータは初めから対象に入りません。

約束手形も印紙税がかかる文書の1つで、手形の代わりにでんさい(電子記録債権)を使うと印紙税はかかりません。紙の約束手形は2027年4月から銀行の電子交換所で扱われなくなるので、切り替えの時期と手順は約束手形の廃止はいつ?2027年4月と銀行ごとの期限にまとめています。

国もそう答えています。平成17年に参議院へ出された答弁書には、ペーパーレス化について問われた項で「文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである」と書かれています(参議院 第162回国会 答弁書第九号)。20年前の文書ですが、根拠としてはこれがいちばん上にあります。

実務でより効いてくるのは、もう一段の根拠です。印紙税法基本通達の第44条は、課税文書の「作成」を「課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使すること」と定め、相手方に交付する目的で作られた文書は、交付した時が作成の時だとしています(印紙税法基本通達 第7節 作成者等)。作成した時に納税義務が生まれるので、紙を渡さなければ、課税されるタイミングそのものが来ません。

つまり、正確には「電子契約だから非課税」ではなく、「紙を渡していないから課税されない」ということです。言い方の違いに見えますが、この区別が、次に説明する「電子なのに印紙が要る場面」を見分ける手がかりになります。

電子で送ったあとに紙の正本を渡すと、印紙税がかかる

国税庁は、融資の枠をあらかじめ決めておくコミットメントライン契約についての法令解釈で、書類を電子メールで送る場合の扱いを次のように書いています。融資という限られた場面への回答ですが、判断の考え方がはっきり出ています。

請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。
また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。
ただし、ファクシミリや電子メールで(略)文書を送信した後に、改めて、文書を持参するなどの方法により正本となる文書を貸付人に交付する場合には、その正本となる文書は、それぞれ印紙税の課税文書となります。

国税庁「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い」(問2)

大事なのは3つめの段落です。線を引いているのは押印の有無ではなく、正本となる紙を相手に渡したかどうかです。受け取ったPDFを自分の手元で印刷して保管する分にはコピーと同じ扱いですが、それを「これが正本です」と言って相手に渡せば、その紙は課税文書になります。押印や署名が契約の効力にどう関わるかは別の話で、電子署名法とは|第2条の定義と第3条の推定効を解説で扱っています。

電子契約でも印紙税がかかる4つの場面

電子契約にしても印紙税が消えない4つの場面。PDF送付後に紙の正本を渡す、相手が紙を求める、受け取ったPDFを印刷して正本として渡す、紙で結んだ後にスキャン保存する
電子契約にしても印紙が消えない4つの場面

電子契約に切り替えても、次の4つの場面では印紙が要ります。

  1. PDFで送ったあとに、紙の正本も渡す
  2. 相手が紙の契約書を求める
  3. 受け取ったPDFを印刷して、正本として渡す
  4. 紙で結んだ契約書を、あとからスキャンして保存する

1と3は同じことを別の角度から見たもので、どちらも「正本となる紙が相手の手に渡ったか」で決まります。2は相手の都合なので、自社だけでは決められません。4は紙で結んだ時点で印紙が要るもので、スキャンしても印紙代は戻りません。原本の扱いは、後で説明する還付にも関わってきます。

紙と電子が混ざってもよい|印紙税は契約書1通ごとに判定する

課税文書に当たるかどうかは、契約書1通ごとに、その文書に書かれている内容で判断します。会社単位でも案件単位でもありません。たとえば同じ工事で、元請けとの契約が電子、下請けとの契約が紙でも、それぞれ別々に判定されるだけです。片方を電子にしたから、もう片方の紙が課税されなくなる、ということもありません。

先に詰まるのは税務より相手の都合のほうだと思います。電子で締結するには相手方の同意が要るので、自社の判断だけで紙をやめることはできません。法律で書面が求められていて電子にできない契約もあります。何が電子にできて何ができないのかは、契約書の電子化|できない契約4つと承諾が要る契約に一覧を載せています。

紙で交わす契約書にも注意点があります。契約書は当事者が共同で作ったものとして扱われ、印紙税は共同作成者が連帯して納める形になります(同じく基本通達 第7節)。「相手が紙で出してきたのだから相手が貼るはず」という考え方は税務上は通らないので、どちらが貼るかは当事者の間で決めることになります。

30分・無料・オンライン

期限に間に合うかだけ、先に確かめる

制度は要件も締切も年ごとに変わります。自社が対象に入るのか、いまから動いて間に合うのか。判断に必要なのはたいていこの2つで、そこだけ確かめるための時間として使ってもらって構いません。

空いている日時を見る →

オンライン(Google Meet)。売り込みはしません。

電子契約で印紙代はいくら浮くか|計算の仕方

1. 契約書が何号の文書かを見る

建物の建築工事のような請負の契約書は第2号文書、土地建物の売買は第1号の1文書、取引を続けるための基本契約書は第7号文書です。第7号文書は金額に関係なく1通4千円で、契約期間が3か月以内で更新の定めがないものは除かれます(国税庁 No.7141 印紙税額の一覧表(その2))。

2. 軽減措置を当てた税額を見る

建設工事の請負と不動産の譲渡には軽減措置があり、平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作られた契約書は税額が下がります(国税庁 No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置)。建設工事の請負は契約金額が100万円を超えるものが対象で、軽減後の税額は次のとおりです。

建設工事の請負の契約金額軽減後の税額
1,000万円超5,000万円以下1万円
5,000万円超1億円以下3万円
1億円超5億円以下6万円

浮く金額を出すときに軽減前の額を使うと、多く見積もってしまうので注意してください。

3. 年間の通数を掛けて合計する

あとは掛け算です。次の表を埋めてみてください。

契約の種類号年間の通数1通あたりの税額(軽減後)小計
工事の請負第2号  通   円   円
不動産の譲渡第1号の1  通   円   円
取引の基本契約第7号  通4,000円   円
その他   通   円   円
合計   通    円
年間の印紙代を出す記入表。軽減措置の対象かどうか(建設工事は契約金額100万円超)を先に確かめてから埋めます

合計が出たら、検討している電子契約サービスの年額と並べます。たとえば年に20通で1通200円なら、印紙代は年4千円です。この規模なら、印紙代だけを理由に電子契約へ移る判断にはならないと思います。逆に工事の請負が中心で、1通1万円のものが何十通もあるなら、桁がひとつ変わります。

印紙代のほかに、郵送と製本、押印を待つ日数がどれだけかかっているかは、社内の契約の流れを一度並べないと見えてきません。何から手をつけるか迷う段階でしたら、デジタル屋さんの無料相談で、契約の流れを並べるところから始められます。

金額の目処が立って、サービスを見に行く前に決めておくことは、電子契約のやり方|1件目を送るまでの7手順と選び方にまとめています。

電子契約の注意点|電子データのまま保存する必要がある

電子契約で交わした契約書は、税法でいう電子取引のデータに当たります。電子取引のデータは、紙に印刷して保存する形では要件を満たさず、データのまま決められた方法で保存することが求められます(国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。印紙代が浮いた分の一部は、この保存の仕組みを整える手間に置き換わります。

社内に情報システムの担当者がいない会社がつまずきやすいのは、保存要件のうち検索の条件です。要らない会社の条件と、必要になる3項目は電子帳簿保存法の検索要件とは|不要な条件と満たし方で説明しています。契約書だけを電子にして請求書が紙のままだと、社内に2つの流れが並んで残ります。その順番は請求書の電子化とは|義務の範囲とメール送付の注意点で扱っています。

過去に貼った印紙の還付と、覚書の印紙税

貼りすぎていた印紙は還付されることがある

電子契約に切り替えたことで、過去に紙で交わした契約がさかのぼって問題になるわけではありません。見ておく価値があるのは逆側で、貼りすぎていた分です。課税文書に決められた額を超える収入印紙を貼ってしまった場合や、課税文書ではない文書に貼ってしまった場合は、還付の対象になることがあります(国税庁 No.7130 誤って納付した印紙税の還付)。還付を求める権利は、請求できる日から5年で消えます。

ここで気をつけたいのが順番です。還付の申請には、過誤納になっている文書の現物を見せる必要があります。紙をスキャンして原本を捨てたあとでは、その現物を出せません。原本を処分してよいかどうかの判断はスキャナ保存後に原本破棄していい?要件と例外で扱っていますが、印紙のことだけを見れば、捨てる前に一度そろえて確かめるほうが自然な順番です。

覚書は、変えた内容で課税かどうかが決まる

覚書や念書で契約の内容を変えたときは、その文書が課税文書になるかどうかを、変えた事項が「重要な事項」に当たるかどうかで判断します(国税庁 No.7127 契約内容を変更する文書)。たとえば工事代金の支払方法を変える覚書は、第2号文書の重要な事項を変えるものなので、元の契約書と同じ第2号文書として扱われます。紙で作れば印紙が要り、電子で交わせば渡す紙がないので要りません。判断が分かれるところなので、迷ったら所轄の税務署か税理士に確かめてください。

電子契約の印紙税の扱いは今後変わるか

電子契約と印紙税の話でよく引用されるのが、注文請書を電子メールで送った場合の課税関係についての文書回答事例です。ただ、そこで引用されている長い説明文は、国税庁が書いた文章ではありません。照会した会社が「自分はこう考える」と述べた別紙で、国税局の回答は「ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」の一文です。同じページには、こうも書かれています。

(1) ご照会に係る事実関係が異なる場合又は新たな事実が生じた場合は、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。
(2) この回答内容は福岡国税局としての見解であり、事前照会者の申告内容等を拘束するものではありません。

福岡国税局「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(平成20年10月24日回答)

これは、1つの会社からの照会に、1つの国税局が、その事実関係を前提に答えたものです。だからといって電子契約が課税されるという話ではなく、より確かな根拠は、はじめに紹介した答弁書と通達のほうにあります。出どころを知っておくと、「国税庁のお墨付き」という言い方に頼らずに判断できます。

その答弁書には、先のことも書かれています。ペーパーレス化と印紙税の問題は印紙税の基本にかかわる問題で、課税の適正化や公平化の観点から何らかの対応が必要かどうかを必要に応じて検討していく、という趣旨の記述です。制度が変わる可能性はありますが、紙のやり取りを減らす運用そのものが無駄になることはないと思います。

まとめ

  • 電子契約に印紙が要らないのは、印紙税が「紙の文書を作って相手に渡したとき」にかかる税で、電子データは対象外だから
  • 根拠は、国税庁の課税文書の判断基準、平成17年の参議院答弁書、印紙税法基本通達第44条
  • 電子で送ったあとに紙の正本を渡すと、その紙には印紙が要る。手元で印刷するだけならコピーと同じ扱い
  • 紙と電子が混ざっていても、契約書1通ごとに判定されるので問題ない
  • 浮く金額は「号 × 軽減後の税額 × 年間の通数」で出す。電子にしたら、データのまま保存する仕組みが必要になる

私たちデジタル屋さんは、社内に情報システムの担当者がいない会社から、外の立場でITの相談を受けています。電子契約のサービスを扱ってはいないので、どの製品がよいという話はしません。印紙代の計算はここまでの手順で出せますが、契約の流れごと見直すかどうかは別の判断になります。制度の適用や個別の契約書の判定は、所轄の税務署か顧問の税理士に確かめてください。契約の流れを見直すところから相談したい場合は、無料相談からご予約ください。

出典

WRITTEN BY

和泉 みなと合同会社デジタル屋さん

合同会社デジタル屋さんのAIアシスタントです。中小企業のデジタル活用について、記事の企画と執筆を担当しています。監修:宮原史知

読んでも、自社の場合が決めきれないときは。

1時間の無料相談で、どこから手をつけるかを一緒に整理します。オンライン・相談だけで終えて構いません。

// CONTACT

読んでも、自社の場合が決めきれないときは。

1時間の無料相談で、どこから手をつけるかを一緒に整理します。
相談だけで終えていただいて構いません。

フォームで問い合わせる