机の上に、パソコン5台の見積書が2社分あります。合計でおよそ100万円。持ってきた社員が「業者さんが、これ補助金で半分くらい戻りますよ、と言っていました」と付け加えて、現場に戻っていく。
知りたいのは「戻る」の中身のほうです。先に100万円を払うのか、払わずに済むのか、いつ戻るのか。その晩、検索窓に「DX補助金」と打ち込むことになります。
調べ始める前に、三つ分かっていると早いです。「DX補助金」という名前の制度は無いこと、パソコンは半分戻らないこと、そして2026年9月3日の時点で、国の枠は開いていて自治体の枠は閉じていることです。公募の日付は動くので、ここに並べた日付はすべて2026年9月3日に各制度の公式ページで確認したものを書いています。
「半分戻ります」の見積り、パソコンは10万円で止まります
パソコンやタブレットが補助の対象になるのは、デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠(インボイス対応類型)です。そして、そこに書かれている補助率と補助額は、ハードウェアとソフトウェアで別々になっています。

パソコン・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機は、補助率が2分の1以内で、補助額は10万円以下。100万円の見積りに対して「半分」だと50万円ですが、実際にハードウェアの側から出るのは、多くても10万円までということになります。5台でも8台でも、この上限は変わりません。
もうひとつ、募集ページには「ハードウェアのみの申請は不可である」「ハードウェアを補助対象として申請する場合は、そのハードウェアがソフトウェアの使用に資するものであること」と書かれています。つまりパソコンだけを買い替えたいという相談は、この枠では最初から成立しません。会計・受発注・決済のどれかの機能を持つソフトウェアが先にあって、その運用に必要な機器として一緒に申請する形になります。
逆に、ソフトウェアの側は補助率が4分の3以内です(小規模事業者は5分の4以内)。補助額が50万円を超えた部分は3分の2になります。「半分」という説明は、ハードウェアについては多すぎて、ソフトウェアについては少なすぎる。どちらの向きにもずれているので、見積書を持ってきた業者に確かめるときは、金額ではなく「ソフトはどれで、ハードはどれか」を聞くほうが早いと思います。
枠ごとの補助率と、申請の前にそろえる書類については、IT導入補助金2026|デジタル化・AI導入補助金の申請先にまとめてあります。
「DX補助金」という名前の制度はありません
検索して出てくるページのタイトルを見ていくと、実は「DX補助金」という語をそのまま使っているところがほとんどありません。国の側にも自治体の側にも、その名前の制度が無いからです。あるのは、名前も締切も前提条件も別々の制度が何本かある、という状態です。
しかも2026年度は、その名前が動いた年でもあります。従業員10〜50人の会社から見て関係があるかどうかも含めて、並べるとこうなります。
| 以前の名前 | 2026年度(令和8年度)の状態 | 10〜50人の会社との関係 |
|---|---|---|
| IT導入補助金 | デジタル化・AI導入補助金2026に改称。事業名は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業」 | 本命。ソフトウェアの導入が対象 |
| ものづくり補助金/新事業進出補助金 | 令和8年度に統合され、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金へ | 設備投資を伴うときは関係する。受付開始は9月30日 |
| 事業再構築補助金 | 令和7年に再編済み。この名前の公募は無い | 無し。現存する制度として案内している記事があれば古い |
| 中小企業成長加速化補助金 | 公募あり。補助上限5億円・補助率2分の1 | ほぼ無し。売上100億円をめざす企業向けで規模が合わない |
| 小規模事業者持続化補助金 | 第20回の申請受付は2026年11月5日から12月15日17時まで | 無し。対象は商業・サービス業で従業員5人以下、宿泊業・娯楽業と製造業その他で20人以下 |
| 自治体のDX補助金・デジタル化補助金 | 市や県ごとに別制度。金額も時期も要件も違う | 関係するが、前提条件がある(後述) |
持続化補助金は名前がよく挙がりますが、従業員数の要件で20人を超える会社は入りません。成長加速化補助金も、上限5億円という金額が示すとおり、狙っている企業の大きさが違います。この2つを候補から外すだけでも、読むべき公募要領はかなり減ります。
省力化投資補助金のほうが合う場合もあります。判断の分かれ目は省力化投資補助金とは?補助上限と、見送る会社の条件に書いています。
30分・無料・オンライン
期限に間に合うかだけ、先に確かめる
制度は要件も締切も年ごとに変わります。自社が対象に入るのか、いまから動いて間に合うのか。判断に必要なのはたいていこの2つで、そこだけ確かめるための時間として使ってもらって構いません。
オンライン(Google Meet)。売り込みはしません。
国の枠は、9月29日まで開いています

デジタル化・AI導入補助金2026の5次締切は、2026年9月29日(火)17時です。通常枠、インボイス枠(インボイス対応類型)、インボイス枠(電子取引類型)、セキュリティ対策推進枠が、いずれも同じ日付になっています。複数者連携デジタル化・AI導入枠の3次締切だけは10月30日(金)17時です。
採択されたあとの日付も公表されています。交付決定日は2026年11月9日(月)の予定、事業実施期間は交付決定から2027年4月30日(金)17時まで、事業実績報告の期限も同じ2027年4月30日です。つまり9月29日に申請して通れば、機器の購入と支払いは11月以降、報告は年度をまたいで春という順番になります。
この順番でいちばん引っかかるのが、交付決定より前に発注や購入をすると対象にならない、という決まりです。今日見積書を持ってきた業者に「じゃあ発注で」と返事をしてしまうと、その分は補助の対象から外れます。急いでいるときほど、ここで取り返しがつかなくなります。
それから、申請にはGビズIDプライムのアカウントが要ります。取得には日数がかかるので、締切から逆算して先に手を付けるところです。必要な手続きの順番は申請先の記事のほうにまとめました。
自治体の枠は、募集の締切より1か月半早く入口が閉じます
自治体のDX補助金には、国の枠には無い前提条件が付いていることがあります。「先に自治体の支援プログラムを受けていること」が申請の要件になっている形です。
私たちの地元である堺市の令和8年度中小企業デジタル化促進補助金を例にすると、こうなっています。補助率は2分の1以内、補助限度額は100万円。募集期間は令和8年5月1日から8月31日まで。ここまでは、よくある募集要項です。
問題はその手前です。申請するには、堺市産業振興センターの「産業DX支援センター」か、堺商工会議所の「IT導入・デジタル化支援専門家派遣」の支援を受けて、専門家と一緒にロードマップを作っている必要があります。そして、その相談の受付締切は令和8年7月17日(金)17時。募集の締切より1か月半早く終わっています。加えて、経済産業省の「マナビDX」のオンライン講座を受講して、その内容を申請書に書くことも条件です。
採択の決め方も、先着順ではありません。申請額が予算額を上回る場合はExcelのRAND関数で審査番号を割り当て、1番から30番までが審査順、31番から40番が補欠、41番以降は番号自体を割り当てないと明記されています。抽選日は令和8年9月3日10時です。
つまり8月に「そろそろ補助金を調べよう」と思い立った会社は、募集期間の中にいても、もう申請できません。同じ構造は他の自治体にもあります。自分の市や県の制度を調べるときは、金額よりも先に次の3点を見るほうが確実です。
- 申請の前に受けておくべき支援プログラムや、加入すべき団体があるか
- そのプログラムの受付が、いつ締め切られるか(募集期間とは別の日付になっていることが多い)
- その受付が、今も新規で受け付けているか
もうひとつ、堺市の要件には「本事業への申請内容と同一の事業内容で国又は他の地方公共団体その他公的機関から補助金等の資金助成を受けている、または受ける予定である」場合は対象外、と書かれています。国と自治体の両方に同じ内容で出す、という組み立てはできません。
申請より先に、ツールと業者が決まります
デジタル化・AI導入補助金には、他の補助金とは違う仕組みがあります。補助の対象になるのは、事前に事務局の審査を受けて登録されたITツールだけで、しかも申請は「IT導入支援事業者」と組んで行う決まりになっています。事務局のページには「補助金申請者は、デジタル化・AI導入補助金事務局に登録されたIT導入支援事業者とパートナーシップを組んで申請することが必要となります」と書かれています。
これは手続き上の話に見えて、実際には順番の話です。ツールと業者が決まらないと申請が始められないので、補助金を使うと決めた時点で、選べる範囲があらかじめ絞られています。業者に「これ、補助金の対象になりますか」と聞けば、たいてい「なりますよ」と返ってきます。嘘をついているわけではなく、その業者が登録しているツールの話をしているからです。
ここで起きやすいのが、自社の詰まっているところではなく、補助が出るツールの一覧のほうから選び始めてしまうことです。半額になるという理由だけで、無くても困らなかったものが構成に入ってくる。5年近く使うものなので、後から効いてきます。
私たちデジタル屋さんは補助金の申請代行をしていませんし、ITツールを販売してもいません。だからこの順番については、ツールを売る側とは別の立場から見ることができます。申請代行を頼むかどうかで迷っている場合は、補助金申請代行は費用で選べるか|残る作業と支払いのほうに、代行に頼んでも自社に残る作業を書いています。
今夜のうちに、三つのどれかに決める
ここまでの日付と条件を、そのまま分岐にするとこうなります。
1. 9月29日の締切に間に合わせる
買いたいものが、会計・受発注・決済のどれかの機能を持つソフトウェアで、パソコンはその運用のために一緒に入れる、という形にできる場合です。この場合はGビズIDプライムの取得から始めて、交付決定が出るまで発注を止められるかどうかを業者と確認します。明日の朝に言う1行は、業者への「交付決定が出るまで発注を待てますか」になります。
2. 今年度は補助金なしで判断する
買いたいものがパソコンだけ、あるいは登録されたITツールの中に自社の詰まりを解くものが無い場合です。補助額10万円のために、共同申請と実績報告と数年の効果報告を引き受けるかどうか、という比較になります。見送るのは負けではなく、こちらのほうが安く早く済むことは普通にあります。明日の朝に言う1行は、社内への「補助金は使わずに、必要な台数だけ入れ替える」になります。
3. 来年度の自治体の枠に向けて、相談窓口から入る
急ぎではないけれど、100万円規模の投資を考えている場合です。自治体の枠は前提条件を満たすまでに数か月かかるので、募集が始まってから動くと間に合いません。年内から年明けにかけて、地元の産業支援センターや商工会議所の相談窓口に申し込んでおくと、来年度の募集に間に合います。堺市の場合は堺市産業振興センターの経営支援課と、堺商工会議所の経営支援課が窓口で、どちらも相談自体は無料です。
優先順位の付け方そのもので迷っているなら、中小企業のDXの進め方|1件だけ着手し残りは今期やらないのほうが近いかもしれません。
三つのどれにも振り分けられず、グレーのまま止まった場合。それはたいてい制度の問題ではなく、どの業務を対象にするかが決まっていないところで止まっています。会社の課題診断は無料で、登録も要りません。制度そのものの相談は、各制度の事務局か、地元の商工会議所のほうが確実です。
この記事で参照した一次情報
- デジタル化・AI導入補助金制度概要(中小企業基盤整備機構)
- インボイス枠(インボイス対応類型)|デジタル化・AI導入補助金2026
- 事業スケジュール|デジタル化・AI導入補助金2026
- 令和8年度堺市中小企業デジタル化促進補助金(堺市)
- 中小企業成長加速化補助金(ミラサポplus)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 令和8年度予算資料(中小企業庁)
- マナビDX(情報処理推進機構)
制度の内容や日付は改定されます。申請の前には、必ず各制度の公式ページと公募要領で最新のものを確認してください。
お気軽にご相談ください
企画段階のご相談でもOKです。1〜2営業日以内にご返信します。
送信ありがとうございました!
お問い合わせありがとうございます。確認メールをお送りしましたのでご確認ください。