夕方の17時50分、知らない番号から電話がかかってきます。出ると、補助金の無料診断をやっておりまして、御社ですと最大1,500万円が、という話が始まります。受話器を置いたあとに残るのは、金額の記憶と、あれが本物だったのかどうか自分では判断できなかった、という感触ではないでしょうか。机の上には商工会議所から届いた説明会の案内が置いてあって、めくると「事業計画書(様式2)」という言葉のところで手が止まります。何ページ書くのかは、その紙には書いてありません。
このとき本当に知りたいのは、代行の相場が20万円なのか50万円なのか、という話ではないように思います。知りたいのは、誰に何を頼めるのか、そして頼んだあとに自分の手元には何が残るのか、のほうではないでしょうか。
私たちデジタル屋さんは、中小企業に外から入って、デジタル化を進める順番を決める仕事をしています。補助金の申請代行はしていません。ですから、代行会社の選び方ランキングのようなものは作れません。代わりに、制度の側に何がどう書かれているかを先に出します。頼む相手を選ぶ前に、そもそも誰が何をしてよいことになっているのかが分かっていたほうが、話は早いと思います。
2026年1月1日から、法律の書き方が変わりました
頼む相手についての前提が、2026年に少し変わっています。行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)が、令和8年(2026年)1月1日に施行されました。改正の中身はいくつかありますが、依頼する側に関係するのは2つだと思います。
ひとつめは、業務の制限規定の趣旨の明確化です。行政書士または行政書士法人でない者による業務の制限規定(法第19条第1項)に、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加えられ、その趣旨が明確にされました。
行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限規定に、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言を加え、その趣旨を明確にすること。(第19条第1項関係)
総務省「行政書士法の一部を改正する法律要綱」
ふたつめは、両罰規定の整備です(法第23条の3関係)。業務の制限違反や、名称の使用制限違反について、両罰規定が整備されました。違反した場合、行為者には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科され、その法人または人に対しても100万円の罰金が科されます。
ここで気をつけたいのは、新しく何かが禁止されたわけではない、という点だと思います。要綱には「その趣旨を明確にすること」と書かれていて、もともとあった趣旨を条文の文言ではっきりさせた、という整理です。総務省の説明では、官公署に提出する書類の作成は、行政書士または行政書士法人でない者は、他の法律に別段の定めがある場合を除いて、他人の依頼を受け、「手数料」や「コンサルタント料」など名目を問わず、報酬を得て、業として行うことはできないとされています。
その説明には「他の法律に別段の定めがある場合を除いて」という条件が付いています。ですから、税理士・中小企業診断士・社会保険労務士といった他の士業や、金融機関、コンサルティング会社が補助金に関わること自体が一律にできなくなった、という話ではありません。見るところは、肩書きがあるかどうかというより、誰が報酬を得てどの書類を作るのか、のほうだと思います。
そのうえで、特定の会社や特定のサービスが違法かどうかを、私たちが判断することはできません。適法かどうかは契約の中身によって変わりますので、気になるなら契約する前に、行政書士会や弁護士などの専門家にご確認ください。制度そのものの入口は、総務省の行政書士制度のページにまとまっています。

「添削してもらう」と「書いてもらう」は別の話です
制限がかかっているのは、官公署に提出する書類を作成することを、報酬を得て業として行うことです。相談に応じてもらうことや、自分が書いたものを見てもらうことと、白紙の状態から起こしてもらうことは、同じ「手伝ってもらう」でも位置が違うのではないでしょうか。
この線引きは、実務の感覚とも合っている気がします。事業計画書に書くのは、どの設備を入れるのか、誰がその設備を使うのか、来年の受注をどう見ているのか、といった自社の中の話です。外の人がどれだけ制度に詳しくても、そこは聞き取らないと書けません。
ですから、頼むときに確認する言葉は決まってくると思います。「誰が、報酬を得て、どの書類を作るのか」。これを口頭ではなく文字で、契約する前に確認しておくと、あとで揉めにくいのではないでしょうか。見積書の業務範囲の欄に、その形で書いてもらえるかどうかが目安になります。
今回の改正については、日本行政書士会連合会が改正法の成立にあたって会長談話を出しています。業界の側の受け止めを知りたいときは、そちらを読んでみるといいかもしれません。
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期限に間に合うかだけ、先に確かめる
制度は要件も締切も年ごとに変わります。自社が対象に入るのか、いまから動いて間に合うのか。判断に必要なのはたいていこの2つで、そこだけ確かめるための時間として使ってもらって構いません。
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締めにきているのは、依頼する側ではなく窓口の側です
こう書くと、依頼した会社のほうが取り締まられるのだろうか、と心配になるかもしれません。ただ、いま実際に動いているのは、申請を受け付ける窓口の側の事務のようです。
総務省は令和7年6月13日付で、各府省庁・都道府県・指定都市あてに事務連絡を出しています。各行政手続の所管部局に対して、行政書士または行政書士法人でない者による関与を防止するための取組を行うよう依頼した、という内容です。別添には、申請様式に代理人の記載欄を整備する、といった地方公共団体の取組例が載っています。
この別添は令和8年1月1日に一部更新されています。つまり、これから様式のほうが変わっていく、ということだと思います。誰に手伝ってもらったのかを書く欄が増えれば、書かないという選択肢はなくなりますし、書いた内容と実態が食い違えば、そちらが問題になります。
ですから、脅しの話としてではなく、事務手続きが変わりつつあるという話として受け取るのがいいのではないでしょうか。実際、申請の画面に支援者の名前と報酬額を記載する欄がある補助金もあります。制度ごとに中身は違いますので、たとえば省力化投資補助金とは?補助上限と、見送る会社の条件も合わせて見てみてください。
顧問税理士に「補助金は専門外」と言われたら
では誰に頼むのか、という話になります。ここでよくあるのが、顧問税理士に相談したら「補助金は専門外です」と言われた、という場面ではないでしょうか。断られたように感じるかもしれませんが、そこで話が終わるわけでもないと思います。
補助金の申請には、性質の違う作業がいくつも混ざっています。公募要領を読んで自社が対象になるかを判断する部分、事業の中身を言葉にする部分、書類の形式を整える部分、そして採択されたあとの交付申請や実績報告の部分です。これを全部ひとりの相手が担うとは限りません。
顧問税理士に頼めるのは、決算書と数字の裏づけの部分です。売上や利益の見通しに無理がないか、設備投資をしたときに資金繰りがどう動くか、といったところを見てもらえるだけでも、計画の精度は変わってくると思います。専門外だと言われたのは、申請書を作る話のほうかもしれません。
関わる専門家は複数います。税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、行政書士など、それぞれ得意な範囲が違いますし、金融機関や商工会議所が関わることもあります。誰が何をするかは契約の中身で決まりますので、肩書きの名前だけで役割を決めつけないほうがいいのではないでしょうか。
そして、複数の相手に分けて頼むこと自体は珍しくないようです。補助金の相談を外に出したからといって、顧問を切るという話にはなりません。外に頼むときも顧問には一言伝えておくほうが、話は通りやすいと思います。
「認定支援機関だから安心」は理由になりません
相手を探し始めると、「認定支援機関です」という表示をよく見かけます。正式には認定経営革新等支援機関といって、国が認定する制度です。制度によっては確認書が申請に必要になりますので、選ぶときの手がかりにはなります。
ただ、その表示だけで安心してよいかというと、そうとも言い切れないかもしれません。認定は取り消されることが現にあります。中小企業庁は令和7年8月27日に認定取消についての公表を行っています。取消の理由や件数までは私たちも知りません。
また、IT導入補助金では、不正受給等に関する調査が行われ、支援事業者の側に対して措置が取られることがあります。中小企業庁の公表資料にその旨が載っています。
ですから、やることは肩書きを聞くことではなく、いま認定されているかを自分で照合することだと思います。認定支援機関は電子申請システムから検索して辿れますので、名刺に書いてある名称でそのまま探してみてください。名刺に印刷された肩書きは、印刷した時点の状態を表しているにすぎないのではないでしょうか。
落ちたとき、いくら払うことになるのか
ここまで来て、ようやく費用の話になります。報酬の形はおおむね3つで、着手金だけ、成功報酬だけ、着手金と成功報酬の併用、のいずれかです。世の中で案内されている水準としては、着手金が数万円から二十万円程度、成功報酬が補助金額の1割から2割程度とされていることが多いようです。
ただ、この数字を並べても、高いか安いかは決まらないように思います。同じ「成功報酬15パーセント」でも、何に対しての15パーセントで、いつ払うのかが違えば、出ていく金額は変わります。決め手になるのは水準ではなく、何が起きたときにいくら払うのかが書面で決まっているかどうか、ではないでしょうか。
契約する前に、文字で確認しておきたいのは次のところです。
- 成功報酬の計算のもとは何か。交付が決定した額なのか、実際に交付された額なのか。減額されて確定したときは、どちらで計算するのか
- 不採択だったとき、着手金は返るのか、返らないのか
- 再申請するとき、費用はもう一度かかるのか
- 採択されたあとの手続き(交付申請・実績報告・確定検査)は、この金額に含まれるのか、別料金なのか
- 秘密の扱いと、外部への再委託があるかどうか
あとから効いてくるのは、最後の実績報告のところだと思います。補助金は採択されて終わりではなく、そのあとに証拠書類を揃えて報告する工程があって、そこで手が止まる会社もあるようです。採択の瞬間だけを見て契約すると、報告の段でもう一度見積書が出てくるかもしれません。

頼んでも、自社に残る作業があります
費用が決まっても、頼めばすべてが終わるわけではありません。自社に残る作業を先に数えておくほうがいいと思います。
- GビズIDプライムアカウントの取得(GビズID)。取得には一定の期間がかかります
- 決算書、見積書、図面など、社内にしかない資料を集めて出す
- なぜその投資をするのかを、自分の言葉で説明する
- 採択後の実績報告に必要な証拠(契約書・請求書・振込の記録)を残しておく
- 社内で誰が窓口になるかを決める
GビズIDは、複数の補助金で電子申請の入口になります。プライムのアカウントは発行まで日数がかかりますので、頼むかどうかを迷っている段階で手続きだけ進めておくと、決めたあとに待たずに済みます。
そして、この中で代われないのは3つめです。なぜその設備を、いま、この順番で入れるのか。そこは社長か、現場を見ている人の中にしかありませんので、外から埋めることができません。
自分で出すという選択肢もあります。申請の流れそのものは制度ごとに公開されていて、たとえばIT導入補助金2026|デジタル化・AI導入補助金の申請先を読むと、どこに何を出すのかの見当はつくと思います。どの制度に出すかがまだ決まっていない段階なら、DX補助金2026|その名前の制度はなく、締切は別々のほうが先です。
投資の理由を自社の言葉で書く部分は、結局のところ代われません。どの業務をどう変えるかの順番で迷っているなら、そこは補助金とは切り離して整理できます。私たちは設備も売っていませんし、申請代行もしていませんので、外から見るだけの関わり方でも構いません。会社の課題診断は無料です。
頼むか、自分で出すか
頼むかどうかを決めるときは、次の順番で見ていくのがいいと思います。
- 誰が、報酬を得て、どの書類を作るのかを、契約する前に文字で確認したか
- 不採択のとき、着手金がどうなるかが書面に書いてあるか
- 成功報酬の計算のもとが、交付決定額なのか実際の交付額なのか、はっきりしているか
- 採択されたあとの手続きが金額に含まれるのか、別料金なのか
- 認定支援機関だと言われたら、いま認定されているかを自分で照合したか
- GビズIDプライムの手続きを始めたか
この6つのうち上のほうが埋まらないなら、まだ契約する段階ではないのかもしれません。埋まらない理由が相手の説明不足なのか、こちらの質問不足なのかは、聞いてみないと分かりません。
申請そのものの相談なら、まず各制度の事務局の相談窓口や、地元の商工会議所・商工会に聞くのが早いと思います。無料ですし、その制度を実際に受け付けている側の話が聞けます。頼む相手の資格の話は総務省の行政書士制度のページ、支援機関の状況は中小企業庁の公表から辿れます。
そして、17時50分の電話に戻ります。名目が「無料診断」でも「コンサルティング」でも、聞くことは同じで、報酬を得て何を作るのか、だと思います。そこに答えが返ってくる相手なら、話を続けてみてもいいのではないでしょうか。
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