ある朝、元請から「今後の請求書は指定のポータルに登録してください」という紙が届きます。その対応が終わらないうちに次は電子帳簿、その次は電子契約と続いていきます。そのたびに誰かに聞いて、そのたびに見積を出してもらうことになりますが、出てきた金額が妥当なのかどうかは、こちらには判断のしようがありません。

IT顧問を検討するときに、先に決めておくことが3つあります。管理者IDをどこまで渡すか、月額に何時間が含まれるか、効かなかったときにどう辞めるか。IT顧問とは何か、という定義から入っても、この3つは決まりません。

この記事を書いているのは、顧問を売っている側です

私たち合同会社デジタル屋さんは、外部デジタル顧問というサービスを月額で提供しています。つまり中立な立場ではありませんし、書いている内容は構造的に「顧問を頼め」の方向へ寄る可能性があります。

そのうえで、次の3つは守ります。①顧問を頼まずに済ませる方法を、頼む方法より先に書く。②自社を選ばせるための価格提示をしない(弊社の月額はトップページに書いてあるので、必要なら各自で見てください。ここで改めて売り込む形にはしません)。③契約の辞め方と、辞めたあとに何が残るかを書く。

ついでに、読者側が使える物差しもあります。IT顧問について書かれたものは、ほぼ全部が顧問を売る側か、顧問を紹介して手数料を取る側の手によるものです。見分ける方法は3つあって、辞め方が書いてあるか、頼まない選択肢が書いてあるか、月額に含まれる稼働時間が書いてあるかで判断できます。この3つが揃っていることは、あまり多くないと思います。同じ物差しを、こちらの書いたものにもそのまま当ててください。

IT顧問の月額に、何時間が含まれているか

IT顧問の費用を調べると、月3万円から月100万円まで出てきます。幅が30倍もあるので相場として役に立ちませんし、自社がいくら払うべきかも、この幅を眺めているだけでは決まりません。

決まらない理由ははっきりしていて、ほとんどの料金表に稼働時間が書いていないからです。月額いくら、という金額だけが書いてあって、それが何時間ぶんなのかが書いていないため、他社と並べても比べようがありません。

人工(にんく)に直すのと同じことをする

設備工事や建築なら、見積を人工に割り戻して妥当性を見ます。ITでも同じことができて、月額を稼働時間で割り、1時間あたりいくらの計算になるかに直せば済みます。

稼働時間まで公開している例として、静岡のaduce株式会社がIT顧問の料金を公開しています(出典:aduce株式会社「IT顧問とは?」2026年8月時点)。ライトが月額55,000円で月4時間、スタンダードが月額110,000円で月12時間。割り戻すと、ライトが1時間あたり約13,750円、スタンダードが約9,167円になります。

この数字を見て「高い」と思うか「妥当」と思うかは、会社の状況によって変わります。大事なのは、稼働時間が書いてあるから割り戻せたという一点です。

月額しか書いていない見積を受け取ったら、「この月額には何時間ぶんが含まれていますか。超えたらどうなりますか」と、そのまま聞けば済みます。専門知識がなくても口に出せる質問ですし、答えられない相手はまずいません。答えを渋る相手がいたら、その反応自体が情報になります。

そして時間単価が出れば、社内で議題にできます。月20時間の外部人材と、正社員を1人雇うのと、どちらが自社に合うのか。少なくとも、同じ条件で並べて比べられるようになります。

この「外から人を入れる」形には、2025年以降に増えた別の呼び方もあります。自社の製品を持ったまま顧客の現場に入るFDE(フォワードデプロイドエンジニア)です。顧問との違いと、1人置いたときに雇う側が負担する額の目安は、そちらのページに整理しました。呼び方が変わっても、稼働時間・管理者ID・辞め方の3つを決める必要は変わりません。

何を渡し、何を渡さないか

IT顧問を入れるときの本当のリスクは、月額の金額ではなく、権限をどこまで渡すかのほうにあると思います。ここを決めずに契約すると、辞めるときのコストが跳ね上がります。

具体的に問題になるのは3つで、ドメインの管理権限、クラウドサービスの課金アカウント、各種サービスの管理者IDです。これらの名義が相手側になっていると、契約を終えるときに、自社のものを自社に戻す作業が発生します。相手に悪意がなくても、担当者が辞めた、会社が畳んだ、というだけで手が付けられなくなることがあります。

渡し方には3段階ある

権限の渡し方の3分類。①渡していいもの=日々の作業に必要な権限、その人用のアカウントを新規に作る。②期間と範囲を切って渡すもの=特定作業のあいだだけの強い権限、終わったら戻す。③渡さないもの=ドメイン名義、クラウド課金アカウント、支払い情報。
二択ではなく3段階に分けると、契約前に決めやすくなる

全部渡すか、全部渡さないかの二択ではなく、実務では3段階に分かれます。

1つ目は渡していいもので、日々の作業に必要な権限がこれにあたります。作業ができなければ頼んだ意味がないので、ここは渡すことになります。ただし個人アカウントを共用するのではなく、その人用のアカウントを新しく作って渡すと、誰が何をしたかが記録に残りますし、契約が終わるときはそのアカウントを止めるだけで済みます。

2つ目は、期間と範囲を切って渡すものです。特定の作業のあいだだけ要る強い権限がこれで、渡す前に「いつまで」「何のために」を決めておき、作業が終わったら戻してもらいます。口約束にせず、契約書かメールに文字で残しておきます。

3つ目は、渡さないものです。ドメインの名義、クラウドの課金アカウント、そして銀行やクレジットカードにつながる情報がこれにあたります。これらは自社の名義のまま、担当者として相手を追加する形にできるので、名義そのものを移す必要はまずありません。

なお、契約が準委任なのか請負なのか、助言が外れたときに誰がどこまで責任を負うのかは、契約書の書き方によります。個別の判断は弁護士に確認してください。ここで言いたいのは、権限の話を契約前にすること自体が普通であるということで、聞いて失礼になる話ではないと思います。

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困っていることは分かっているのに、順番が決まらない。その状態で見積もりを取ると、比べる基準がないまま金額だけが並びます。話を聞いて、先にやることと今期はやらないことを分けるところまでやります。

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効かなかったとき、どう辞めるか

IT顧問を紹介しているページを何本読んでも辞め方は出てこず、入口の話だけで終わります。書けば解約が増えるので、売る側が書かないのは当然といえば当然かもしれません。

ただ、辞め方が決まっていない契約は、始めるときの判断もできません。だから、契約する前に辞め方のほうを先に決めます。

契約書で見る4か所

  • 最低契約期間と自動更新の条件を見ます。何か月縛りなのか、更新を止めるには何日前までに言えばいいのか。ここを読まずに押印すると、合わないと分かってから半年払い続けることになります
  • 作ったものの帰属を確かめます。台帳、ネットワーク図、手順書、設定情報が自社のものだと書いてあるか。書いていなければ、書き足してもらいます
  • 終了時のアカウント返還を決めておきます。渡した権限をいつまでに戻すのか、どのアカウントを削除するのか
  • 再委託ができる契約かどうかも確認します。実際に手を動かすのが契約相手なのか、その先の誰かなのか

効いているかは、残ったもので見る

3か月、6か月の時点で「効いているか」を主観で判定しようとすると、たいてい判定できません。相手はいい人だし、毎月来てくれているし、という話になりがちです。

そこで、手元に何が増えたかで見ます。契約の一覧はできたか、IDの台帳はあるか、どこに何があるかを社内の別の人間が見て分かる状態になったか。増えていなければ、相談相手としては機能していても、資産は残っていないということになります。それが悪いわけではなく、そういう契約だったというだけの話で、そこから次にどうするかを決められます。

頼まなくていい場合があります

月額の顧問契約を結ぶ前に、公的な窓口で足りるかどうかを確かめる価値があります。無料か、かなり安い金額で使えるものが実際にあります。

窓口何が頼めるか
よろず支援拠点国が各都道府県に置いている中小企業向けの相談窓口。相談は無料で、回数の制限もない
サイバーセキュリティお助け隊サービスIPA(情報処理推進機構)が登録している中小企業向けのサービス。見守り、駆け付け、保険がひとまとめ。事業者一覧と価格一覧が公開されている
デジタル化・AI導入補助金2026年にIT導入補助金から名称が変わった制度。ソフトウェアの導入費用などが対象
商工会議所・商工会専門家派遣の制度を持っていることが多い。地域によって内容が違うので、自分の地域の窓口に確認する

デジタル化・AI導入補助金のほうは、名称が変わったことと申請の入口をIT導入補助金2026|デジタル化・AI導入補助金の申請先にまとめました。いずれも適用の可否は自社の状況によりますので、対象になるかどうかは各窓口に確認してください。

もう1つ、顧問を置く前にやっておくと頼む範囲が小さくなるものがあります。ドメインや保守契約の更新日を、先に一覧にしておくことです。ドメインの有効期限が切れると、サイトとメールが同時に止まりますが、一覧があれば期限の前に気づけます。範囲が決まっていれば見積もりも小さくなりますし、集め方はひとり情シスのリスク|ドメイン・証明書の期限切れにまとめてあります。

サービス名が「AI顧問」になっている場合も、確かめることは同じです。ただしこちらは、人の時間を売っているのか、AIを使う仕組みそのものを指しているのかが、名前からは読み取れません。先に自分で試せる範囲があるので、その分け方はAI顧問の選び方|人が来るのか、ツールが来るのかにまとめました。

もう1つ、SECURITY ACTIONという自己宣言の制度があります。IPAが運営していて、宣言そのものは無料です。デジタル化・AI導入補助金の交付申請では、このIDの登録が要件になっています。顧問を頼む前に自分で済ませられる部類のもので、GビズIDプライムを持っていれば、申込から番号の発行まで当日で終わります。手順と、宣言したあとに社内へ残るものはSECURITY ACTIONとは?宣言方法と宣言後にやることにまとめました。二つ星で公開が必要になる情報セキュリティ基本方針の作り方も、A4一枚で終わる範囲の話です。

使ってみること自体が、仕様書になる

公的な窓口には得意不得意があります。制度や一般論の相談には強い一方で、自社の機器やアカウントを実際に触ってもらう類のことは範囲外です。

ただ、使ってみて足りなかった部分こそが、外に頼むべき内容の仕様書になります。「何を頼んだらいいか分からない」状態で顧問を入れると、最初の数か月が状況の把握で終わり、月額を払いながら自社の棚卸しをしてもらっている状態になります。それが悪いわけではありませんが、無料でできる部分を先に済ませておけば、その数か月ぶんが浮きます。

顧問を呼ぶ前に、自分で埋める4行

顧問を呼ぶ前に埋める4行。1つ目は契約と自動更新、2つ目は管理者IDとパスワードの持ち主、3つ目は機器と回線、4つ目は年間のIT支出合計。
頼んでも頼まなくても無駄にならないので、判断より先に手が動く

ここまでの話を、来週の月曜に手が動く形にします。用意するのは紙1枚で足ります。

この4行は、顧問を頼んでも頼まなくても無駄になりません。頼むなら初回の打ち合わせがそのまま本題から始まりますし、頼まないなら、それ自体が社内の備えになります。

元請から来る要求も、この紙の1列にする

請求書のポータル、電子帳簿、電子契約。この手の要求が終わらないのは、来るたびに別の案件として処理しているからです。1件ずつ誰かに聞いて、1件ずつ対応していると、毎回ゼロから始めることになります。

上の4行の紙に「取引先から求められている対応」の列を足して、来た順に書き足していくと、それだけで次に何か来たときの起点ができます。誰がそのIDを持っているか、いつまでに何をするか、が同じ紙の上に並びます。

同じ紙に、もう1行足しておくといいものがあります。社内で誰が、どの生成AIに、何を入力しているか。無料のAIサービスに見積書や顧客名簿を貼り付けている人がいても、会社としては把握できません。禁止するかどうかは後で決めればよく、まずは把握だけしておけば足ります。この1行が抜けたまま数年経つと、後から追いかけるのが難しくなるかもしれません。

初回面談で聞く3つの質問

相場を知らないまま話を聞きに行くのは不安なものですが、相場を知らなくても、相手の答え方は見られます。専門知識がなくても口に出せる質問を3つ挙げますので、そのまま読み上げて構いません。

  1. 「この月額には、何時間ぶんの稼働が含まれていますか。超えた場合はどうなりますか」
  2. 「提案していただくシステムや機器を、御社または関連会社でも販売していますか。紹介手数料は発生しますか」
  3. 「最低契約期間はどれくらいですか。終わるときに、こちらに何を渡していただけますか」

2番目は答えにくい質問に見えますが、そうでもありません。自社でも売っていること自体は悪いことではなく、そのほうが話が早い場面もあります。問題は、売っていることを伏せたまま「中立な助言」として提案されることなので、初回のうちに確認します。聞かれて機嫌が悪くなる相手なら、その反応そのものが答えだと思います。

この3つは、私たちが聞かれても同じように答えます。頼む対象がAIを使った業務の見直しの場合は、工程ごとの費用の桁と補助金の条件が別に効いてきますので、そちらはAI導入支援の費用と選び方|中小企業が先に決める範囲に整理しました。

なお、社内でITに詳しい人が1人しかいない状態そのものについては、属人化の直し方|全部やらず止まる順に2〜3個に別途まとめています。顧問を入れるかどうかとは別に、先に効く話だと思います。

まとめ

IT顧問を検討するときに先に決めるのは、誰に頼むかではありません。月額に何時間が含まれるか、管理者IDをどこまで渡すか、効かなかったときにどう辞めるか、の3つです。

なお、助言をもらうのではなく、アカウントの発行や問い合わせの一次対応まで丸ごと外に出す場合は、決めることが少し変わります。そちらは情シスアウトソーシングで外注できる範囲と残る2つにまとめています。

この3つを自分で決められる状態になっていれば、公的な窓口で足りるかどうかも自分で判断できるはずです。まずは4行の紙を埋めるところまでが、顧問がいてもいなくても必要な作業です。

その4行の紙に「期日」の列を1本足して、上から1件だけ着手する進め方は中小企業のDXの進め方|1件だけ着手し残りは今期やらないにまとめています。顧問を頼むかどうかを決める前の段階として、先に読んでいただいても構いません。

参考までに、私たちが外部デジタル顧問として何をしているかは外部デジタル顧問のページにまとめています。上の3つを決めたうえで、他社と並べて比べてください。

自社の状況をどう整理すればいいか分からない場合は、会社の課題診断で当たりをつけられます。4行の紙が埋まらない、そもそもどこから手をつけるかの判断が付かない、という段階の方向けです。

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