湯気の向こう側

画面をなぞって、曇りを拭いてみて

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霧隠温泉郷
滞在記

どこにあるかは教えられない。というか、正確な場所を僕自身もよく覚えていない。カーナビが「目的地周辺です」と告げたとき、周囲には杉の木と霧しかなかった。でも湯気の匂いだけは確かにあった。ここから先は、ある冬の週末に僕が体験した(という体の)架空の温泉レポートである。

Day 1 — 到着

14時すぎ、宿に着く。「霧隠館」と書かれた木の看板は苔に半分覆われていて、読めるかどうかも怪しい。玄関を開けると、番頭さんがにこにこしながら「お待ちしておりました、Wi-Fiのパスワードは"yugakemuri"です」と言った。優先順位が独特である。

部屋に通されると、窓の向こうに渓谷が広がっていた。紅葉はとうに終わっていたが、枯れ木の隙間から湯気が立ち昇る景色はむしろ幻想的だった。仲居さんが持ってきた抹茶と温泉まんじゅうをいただきながら、しばし呆然とする。まんじゅうは3個あった。ひとりなのに。ありがたく全部食べた。

霧隠の湯 — 三つの源泉

Day 1 — 夕食

18時、部屋食。仲居さんが次から次へと料理を運んでくる。先付、八寸、お造り、焼き物、煮物、揚げ物、酢の物、蒸し物、ご飯、止め椀、水菓子。数えたら全12品あった。ひとりなのに。

特に印象的だったのは「霧隠名物・湯気蒸し」。せいろの蓋を開けると、もうもうと湯気が立ち昇り、その中から地元の野菜と川魚が現れる演出。まるでこのページの湯気エフェクトのリアル版である。味は言うまでもなく絶品。地酒「霧の雫」と合わせると、記憶が少し霞んでくる。これも温泉の効能かもしれない。

Day 2 — 湯めぐりの記録

06:00 朝湯(絹の湯)。誰もいない。贅沢。
08:00 朝食。卵焼きが異常にうまい。
10:00 散策。吊り橋を渡る。少し怖い。
12:00 昼食。温泉街の蕎麦屋。天ぷら付き。
14:00 鉄輪の湯。おじさんと世間話。
16:00 部屋で昼寝。最高の罪悪感。
19:00 月見の湯。サルはいなかった。

帰り道

チェックアウトの朝、番頭さんが「またお越しください。パスワードは変わりませんので」と言った。帰りの車の中でGoogleマップを確認したが、霧隠温泉郷はどこにも表示されなかった。あの場所は本当に存在したのだろうか。

——もちろん存在しない。これは架空の温泉レポートで、すべてダミーのテキストです。でも読み終わったあと、ちょっとだけ温泉に行きたくなったなら、このページの仕事は果たせたのかもしれません。画面の湯気、ちゃんと拭けましたか?