休みの前日、自分の携帯番号を書いた紙をFAX機の横に貼る。休憩室のホワイトボードにも同じ番号を書き足して、「何かあったら電話して」と言い残して帰る。そういう休み方をしたことがあるなら、この先が役に立つと思います。

担当者が休むと会社が止まる、と言うとき、そこで止めているのは作業そのものではありません。止まっているのは連絡と判断の行き先のほうで、直すのはそこ一箇所で足ります。属人化の解消法やマニュアルの作り方は、いったん脇に置いてかまいません。

扱うのは半日から1日の休みです。1週間以上空けるなら別の準備が要りますし、連絡先と決裁の行き先を自分で決められる立場でないと、この手順はそのままでは使えません。

休みの前日に固まるのは、作業ではなく「連絡」のほう

休む前日にやっていることを思い出してください。引き継ぎ書を作り込んでいる人は、たぶん少数派だと思います。たいていやっているのは、自分の携帯番号を貼ることと、「何かあったら連絡して」と言い残すことの2つだけではないでしょうか。

これは作業が引き継げていない状態ではなく、連絡の行き先が本人しかない状態です。手順書をどれだけ完璧に作っても、電話は本人の携帯に鳴りますし、メールは本人のアドレスに届きます。取引先は手順書を読んでから電話をかけてくるわけではありません。

属人化というとき、ふつうは「その仕事をできる人が1人しかいない」ことを指します。ただ、休みを壊しているのはもう一つのほうで、この2つは分けて考えたほうがいいと思います。

  • 作業の属人化:その仕事のやり方を知っているのが1人
  • 窓口の属人化:その仕事の連絡が届く先が1人

前者を直すには何か月もかかりますが、後者は紙1枚で変わります。そして、半日休むために必要なのは後者だけです。

「休む」には4段階ある。全部を一度に取りにいくから休めない

「休む」の4段階。①連絡が来ない ②来ても見なくていい ③代わりが判断していい ④止まっても壊れない。上に行くほど難しい
半日の休みに要るのは①だけ。④まで一度に取りにいくから着手できなくなる

「休む」を1つの状態だと思っていると、いつまでも着手できません。ほんとうは、連絡が来ない状態から、止まっても壊れない状態まで、段階が分かれています。

上に行くほど難しく、④まで行くには組織そのものの作り替えが要ります。ただ、半日の休みに必要なのは①だけで、②以降は今年やらなくてかまいません。

いきなり④を目指すと、やることが多すぎて着手できないまま終わります。今日決めるのは①の行き先だけでいいと思います。

どこを放っておくかを、先に決める

「まず全社の業務を棚卸ししましょう」と言われて手が止まるのは、当然だと思います。その調査票を作り、配り、催促し、集計するのは、たいてい言われた本人だからです。専任の推進担当がいる会社のほうが少ないはずです。

棚卸し自体は要ります。ただしそれは属人化そのものを解くための作業であって、今週の半日を取るためには先に要りません。目的が違うのではなく、順番が違うだけです。

半日のためにやるのは逆の作業で、放っておくものを先に決めます。止まったときに何が起きるかで4つに分けます。

  • (a) お金が止まる:支払い、入金確認、給与、締め
  • (b) 外の信用が減る:納期回答、問い合わせへの返答
  • (c) 後で自分の手間が増えるだけ:戻ってからやれば済む
  • (d) 実は誰も困らない:止まったことに誰も気づかない

半日なら (a) だけ見れば足ります。(b) は「半日待たせても壊れない」ものがほとんどですし、(c) と (d) は放置してかまいません。

ここで業務名を並べたくなりますが、並べた時点で棚卸しに戻ってしまいます。分けるのは (a) かどうかの1点だけです。

代われる人が物理的にいない場合

一人経理、一人事務のように、判断を代われる相手がそもそもいないことがあります。その場合でも半日は取れます。代わりを立てるのではなく、日をずらすからです。締め日と支払日を避けて半日を置けば、(a) はその日だけ空になります。

腰を据えて属人化そのものを解く手順は、業務の属人化についての診断ガイドにまとめています。順番が違うだけで、どちらも要ります。

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困っていることは分かっているのに、順番が決まらない。その状態で見積もりを取ると、比べる基準がないまま金額だけが並びます。話を聞いて、先にやることと今期はやらないことを分けるところまでやります。

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いちばん行き先が決まっていないのは、たぶん自分あての連絡

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、令和6年1年間の年次有給休暇の取得率は66.9%で、前年の65.3%を上回り、昭和59年以降で最も高くなりました(令和7年就労条件総合調査 結果の概況)。数字だけ見れば、休暇は取りやすくなっています。

ただし、この調査の母集団は「常用労働者30人以上を雇用する民営企業」で、29人以下の会社は最初から入っていません。さらに、取得率が測っているのは労働者の年次有給休暇なので、労働者ではない経営者はこの数字のどこにも現れません。

つまり、小さい会社の、それも経営者の休めなさを測った公的な数字は見当たりません。これは「うちだけじゃない」という慰めではなく、比べる相手がいないという事実です。どれくらい休めていないかは、自分で数えるしかないのだと思います。

そして、従業員の属人化を直しても、自分あての分は残ります。銀行と話すのも、判子を押すのも、最終判断をするのも自分です。次の章で作る一枚には、自分あての行を必ず入れてください。ここを飛ばすと、社内は回るのに自分だけ休めない状態が残ります。

明日の朝、10分でやる一手 ―「不在時の一枚」

不在時の一枚の作り方。1.鳴る先を書き出す 2.受ける人を1人決める 3.その場で答えていい範囲に線を引く 4.線を越えたら誰に何で連絡するかを書く
A4一枚・10分。業務ではなく連絡の経路だけを書く

作るのは業務マニュアルではありません。A4一枚、10分、費用はかかりません。書くのは業務そのものではなく連絡の経路で、業務名は一つも出てきません。

この4つに加えて、2行だけ足しておきます。

  • 連絡がつかなかったときの既定動作(「明日折り返すと伝えて切る」で十分です)
  • 戻った日の朝、自分が最初に見るもの

最後の1行が抜けると、休んだ分が全部、戻った日の朝に降ってきます。休めない理由の半分はここにあるかもしれません。留守中の連絡が溜まる場所を1つに決めておけば、戻った朝に開くのはそこだけで済みます。

紙でかまいませんし、ツールは今は買わなくて大丈夫です。打ち合わせの記録をAIに任せる場合も考え方は同じで、道具より先に誰が確定版を作るかを決めておくほうが早く回ります。買うかどうかは、半日を1回試したあとで判断できます。

ベテランに切り出すときの、最初の一言

「あなたの仕事を、誰でもできるようにしたい」。この言い方は、高い確率で「あなたでなくてもいい」と伝わってしまうように思います。長く担ってきた人にとって、代われることは自分の価値が下がることだからです。

仕事を取り上げたいわけではないのなら、変えるのは言い方のほうです。そのまま口に出せる形にすると、たとえばこうなります。

  • 「あなたに連絡が行かない日を、月に一度だけ作りたい」
  • 「あなたが決めることと、私が決めることを、一度分けておきたい」
  • 「休んだ日に何が鳴ったかを、知っておきたい」

3つとも仕事を取り上げる話にはなっておらず、決めているのは連絡の行き先だけです。

その人がなぜ共有を嫌がるのか、という構造そのものについては「マニュアル化できない仕事」の正体にまとめています。

度胸ではなく、手順で試す

「あの人が抜けたら本当に止まるのか」は、机の上で考えても分かりません。かといって偶然の欠勤を待っていると順番がいつまでも来ないので、試す日をこちらから作ります。

  • 締め日と月初・月末を外した日を選ぶ
  • まずは半日だけにして、丸1日は次の機会に回す
  • 止めていい範囲を前日に決めておく((a) 以外は止めてよい)

終わったあとに数えるのは、止まった業務の数ではなく本人に着信したものの件数です。0件ならその半日は成立していますし、3件なら、その3件が次に直す一箇所を指しています。業務全体を見渡さなくても、直す場所はこの数え方で1つに絞れます。

すでに退職を切り出されている場合は、残り日数から逆算する別の手順になります。属人化した担当者の退職|引き継ぎ日数の数え方を参照してください。

今年直すのは、一箇所でいい

(a) に入れたもののうち、まず1件だけ選びます。全部やろうとすると、去年と同じ場所に戻ります。

相談する相手は専門家でなくてかまいませんし、たいていすでに近くにいます。顧問税理士は (a) のうち支払いと締めを把握していますし、社内でいちばん電話を受けている人は、窓口がどこで詰まるかを知っています。まずはそのどちらかに一枚を見せるところからで十分だと思います。

社内に相談できる相手がおらず、外部に月額で頼むことを検討する段階に入ったら、金額より先に決めることが3つあります。月額に何時間ぶんが含まれるか、管理者IDをどこまで渡すか、効かなかったときにどう辞めるか。IT顧問の選び方|契約前に決める3つと辞め方にまとめました。頼まずに済ませる公的な窓口もあわせて挙げています。

なお、何が (a) で何が (c) なのかは、業種と入金のサイクルで変わります。私たち合同会社デジタル屋さんは、この切り分けを会社の中に入って一緒にやっています。自社の場合はどうか、というところから相談していただいて構いません。お問い合わせからご連絡ください。規模や業種で進め方が変わるため、費用は要相談としています。

どこから手をつけるかを1つに絞りたいときは、4〜6問のデジタル相談をご利用ください。無料・登録なしで、いま一つだけ変えるなら何かと、最初の30日でやることをその場でお出しします。

不在時の一枚を作ったあと、社内のどの属人化を直してどれを置くかを決める段階に入ったら、属人化の直し方|全部やらず止まる順に2〜3個に判断の順序をまとめています。

経理を1人に任せている場合は、(a) の中身がさらに絞れます。給与の支給日と、源泉所得税・社会保険料の納付日だけが外に出る期日で、そこは制度で本数が決まっています。詳しくは一人経理のリスク|先に押さえる3つの期日にまとめています。

同じく経理まわりで、メールで届く請求書や領収書の保存を担当者1人に任せている場合は、電子帳簿保存法の検索要件|不要な会社と必要な3項目を先に見てください。ファイル名を毎回変える作業が、そもそも自社には要らない場合があります。

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