朝、元請けから電話が入る。「先週の追加工事、いくらで出してた?」。見積書はサーバにあるが、ファイルは「A様邸_修正_修正2_これ.xlsx」と「A様邸_最新.xlsx」の2つ。担当は今日休みで、携帯にかけても出ない。折り返しますと言ったまま、まだ折り返せていない。

属人化(ぞくじんか)とは、特定の人しかやり方や中身を知らない状態のことです。ただ、言葉の意味を確かめるより先に決めたほうがいいのは、どれを直し、どれを直さないかのほうだと思います。

①担当者が休んだとき何日で止まるかを測る方法、②今週30分で終わる1個、③全部やると何時間消えるのか。全部を標準化する必要はないと思います。止まったときに困る順に並べ替えて、上から2〜3個だけ引き継げる形にし、残りは属人化のまま置く、というのが結論です。

※言葉の意味・読み方・言い換えだけを調べに来た方は、末尾の用語の整理へどうぞ。
※社内に詳しい人を置けないので外に相談相手を持ちたい、という段階の方はIT顧問の選び方|契約前に決める3つと辞め方もあわせてどうぞ。

担当者が3日休んだとき、何日で止まるかは測れる

担当者が辞めるとノウハウが失われる、品質がばらつく。属人化のリスクとしてよく挙がるのはこのあたりで、どれも本当だと思います。ただ、そこからは自社が何日で止まるかまでは出てきません。

止まる日数のほうは、特別な準備をしなくても測れます。次にその人が3日以上休む日を使います。

紙を1枚用意して、休みのあいだ次の3つを数えるだけです。

  1. 休んでいる本人に連絡した回数
  2. 本人の回答を待って翌日以降に回した件数
  3. 自分で判断できず保留にした件数

この3つが、そのまま止まる度合いです。1が0回で2と3も0件なら、その業務は属人化していません。逆に3日で2が5件出たなら、1か月不在なら50件です。

本人に説明する必要はありません。休む前に何かを準備してもらう必要もありません。測るのは経営者側の作業で、相手の協力が要らないところが大事で、協力を必要にした時点で、たいてい実行されないように思います。

数えたあとは、2と3で挙がった案件だけを対象にします。全業務の棚卸しまで広げる必要はないと思います。

これは担当者のせいでも、経営者のせいでもない

DXに向けた取組を進めるに当たっての問題点。DXを推進する人材が足りない51.2%、費用の負担が大きい44.7%、DXに取り組む時間がない23.8%、経営者や従業員の意識・理解が足りていない23.6%、どのように推進すればよいか分からない21.3%
意識・理解の不足より、人と金が上に来る

属人化の原因として、本人が立場を守るために情報を出さない、個人成果主義の評価制度が悪い、といった説明を見かけます。そういう例もあるのでしょうが、その説明が正しくても、明日やることは1つも決まりません

実際に起きているのは、仕組みを作る時間を持っている人が社内にいない、という配分の問題ではないでしょうか。

2025年版中小企業白書は、DXに向けた取組を進めるに当たっての問題点を、デジタル化の取組段階別に集計しています。デジタルツールを使い始めている「段階2」の企業(n=12,500)では、「DXを推進する人材が足りない」が51.2%、「費用の負担が大きい」が44.7%。意識や理解の不足(23.6%)より、はるかに上に来ています。

つまり止まっている理由の1位は、意識ではなく人と金です。ここを人の姿勢の問題として扱うと、打ち手が「意識改革」になって、何も変わりません。

もう1つ、国の文書に踏み込んだ記述があります。中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)は、こう書いています。

特に、中小企業においてはノウハウや取引関係等が経営者個人に集中していることが多いため、事業の円滑な運営や業績が経営者の資質に大きく左右される傾向がある

集中している状態を、国が中小企業の一般的な前提として書いているということです。この会社固有の失敗ではありません。ただ、前提であることは放っておいていい理由にはならないので、置くものと直すものを先に分けます。

属人化しているのは「作業」ではなく、3種類の別物

属人化の3分類。①在処の属人化は今週着手できる、②判断の属人化は聞き取りが必要、③関係の属人化は書き切れないので置くと決める対象
直す順番も値段も違う。混ぜると一番高いところで止まる

はじめの電話には、実は3つの違うものが混ざっています。同名ファイルが2つあること、追加工事の金額の決め方、そして元請けの担当者との経緯。この3つは、直す難しさも値段もまったく違います。

混ぜたまま「業務を可視化しよう」と始めると、いちばん聞き取りに時間のかかるものに引きずられて全体が動かなくなるので、先に3つへ分けます。

① 在処(ありか)の属人化 ― いちばん安い

どれが最新か、どこに置いてあるかを本人しか知らない状態です。同名ファイルが複数ある、鍵の場所が口伝、契約書の原本がどの棚か分からない。

経営者が一人で、今週30分で減らせます。本人の協力も、ソフトの導入も要りません。顧客リストのように複数人が同じファイルを触っている場合の線の引き方は、顧客管理のエクセル|作り方と5つの安全管理措置にまとめています。

② 判断の属人化 ― 高い

金額を通すか差し戻すか、クレームを誰に上げるか。手順ではなく判断が仕事の中身になっている状態です。ここで手順書を作ろうとすると、たいてい行き詰まります。書くべきなのは手順ではなく判断の基準で、本人からの聞き取りが何回か必要になります。

基準の書き方はマニュアル化できない仕事はどう残す?3つの型で、「自分で決めていい範囲」「必ず確認する範囲」の線引きとして整理しました。

③ 関係の属人化 ― いちばん高い。置くと決める対象

取引先の誰に何を言えば通るか、過去の貸し借り、言い方。この種のものは書き出そうとしても、書けない部分が必ず残ります。

だからここは属人化のまま置くと決めます。置く代わりに用意するのは2つだけです。本人不在時に誰へ連絡するか、そしていつまで止めていいか。この2つがあれば、書けないまま業務は回ります。

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全部やると何時間消えるのか

「まずは業務の棚卸しから」という進め方でつまずくのは、その棚卸しに誰の何時間が消えるのかを決めないまま始めるからだと思います。

消える時間は、社内でいちばん忙しい人の時間です。属人化している本人が、たいていいちばん忙しいからです。担当者が多忙だという前提で問題を整理しておきながら、対策として同じ担当者にマニュアルを作らせる計画になっていたら、それは最初から動かないと思います。

平均的な所要時間は業務によって違いすぎるので、次の式で自分の会社の数字を出す形にします。

対象業務の数 × 1件あたりの聞き取り回数 × 1回の時間 = 本人から抜ける時間

②判断の属人化なら、1業務あたり30分の聞き取りが3回ほどかかると考えておくと、大きくは外れないはずです。5業務やれば7時間半、本人の稼働から抜けます。その時間を今期出せるかどうかを先に決めます。

出せないなら、対象を減らします。今期やるのは2〜3個にとどめて、残りは置きます。置くというのは放置ではなく、①不在時の連絡先と②止めていい期限を決めることです。

今週、30分で終わる1個

今週30分でやる4手順。案件を1件書く、最終版を決める、他のファイルを退避する、次に休む日を決めて連絡回数を数える。各手順にやらないことを併記
各手順の「やらないこと」のほうが、実行できるかを決める

会議の設定でも、ソフトの導入でもありません。経営者が一人で座って終わるものだけを並べていて、対象は①在処の属人化に限ります。

逆に、今週やらないことも同じ数あります。全社の命名規則を決める、他の案件も同時にやる、本人に相談してから始める、ソフトを探す。どれも今週やることではありません。1つ目が回り始めてから次へ移るほうが、結局は速く進みます。

相手に何をどう頼むかで迷うときは、仕事の属人化で休めない|休む前に決める2つに、ベテランへの最初のひと言と、不在時の一枚の作り方をまとめています。すでに退職の申し出を受けている場合は、事前の話ではなく残り日数の話になるので、属人化した担当者の退職|引き継ぎ日数の数え方のほうが近いと思います。

直すと決めた1個について、変える前に値を取り、効かなかったときに戻す条件を決めておく手順は業務効率化のやり方|効かなかったときに戻す決め方に書きました。戻せる形にしておくと、現場の反対もその分だけ小さくなります。

標準化したあと、どこで死ぬか

うまくいった例より、失敗の形を知っておいたほうが役に立つと思います。よく起きるのは次の3つです。

1つ目は、作った本人以外が更新しなくなることです。半年も経つと内容が実態とずれて、古い手順どおりにやった人が事故を起こします。防ぐには、直す条件(道具が変わった・手順を変えた・読んだ人が間違えた)と、直していい人を先に決めておきます。

2つ目は、入力する側に得がないので、誰も書き込まないことです。共有の場所を作っても、書く人の手間が増えるだけなら埋まりません。書く人が最初の受益者になる形(自分が探す時間が減る、聞かれる回数が減る)にしないと続かないように思います。

3つ目は、判断を平均化した結果、例外対応が落ちて品質が下がることです。標準化にも副作用があるので、③関係の属人化は置く、という判断が要ります。

そして新しい形の属人化が増えている

ここ数年で増えているのが、一人が組んだ自動化が、誰にも中身を読めないまま回っている状態です。

  • 詳しい社員が作った生成AIのプロンプトが、業務の判断に使われている。なぜその出力になるのかを他の人が説明できない
  • ノーコードツールで組んだ自動連携が動いている。作った人以外、どこで何がトリガーされているか分からない
  • 表計算のマクロや関数が入り組んでいて、数字は出るが検算できない

これは属人化を解こうとして導入した道具が、新しい属人化を作っている形です。厄介なのは、動いているあいだは効率化の成功例に見えるところだと思います。扱いは①在処の属人化と同じで構いません。何が動いているかの一覧と、止まったとき誰に聞くかを決めておきます。中身の理解は後でいいので、存在の把握だけ先にします。

測ったうえで2〜3個に絞ったのに、どれを先にするかで手が止まる、という段階で相談をいただくことがあります。順番だけを一緒に決める形でも承っています。内容や規模で進め方が変わるため費用は要相談としています。お問い合わせから、今の状況をそのままお送りください。

用語の整理

読み方ぞくじんか
意味特定の人しか、やり方や中身を知らない状態
対義語標準化(誰が担当しても同じ品質でできる状態)
平準化との違い平準化は仕事量や負荷を均すこと。誰でもできるようにすることではない
ブラックボックス化中で何が起きているか外から見えない状態。属人化の結果として起きる
暗黙知・形式知暗黙知は言葉にされていない知識、形式知は文書などになった知識。属人化は暗黙知が形式知にならないまま残った状態
専門化との違い専門化はその人の能力を高めること。属人化は他の人が代われないこと。専門性が高くても、在処と判断基準が共有されていれば属人化ではない
言い換え表現一人依存、担当者依存、キーパーソン依存、あの人しか分からない状態

順番が決まらないとき

止まる順に並べる作業は、社内だけだと決まらないことがあります。どの業務も同じくらい大事に見えるうえに、順番を決めることが誰かの仕事を軽く見る話に受け取られやすいためです。

私たち合同会社デジタル屋さんは、この順番を決めるところから会社の中に入って一緒にやっています。決めた2〜3個を実際に引き継げる形にするところまでが仕事です。規模と対象人数で進め方が変わるため、費用は要相談としています。ご連絡はお問い合わせからお願いします。

その前に、自社の属人化がどの型なのかを見分けるところから始めても構いません。止まる順に並べれば、直す2〜3個はそこで決まります。

出典

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